そんなに暇なら本でも読みませんか?

書評、感想、おすすめ。少々偏りがありますが、わりと何でも読みます。

夜と霧 ビクトール・フランクルの言葉

 ――どんな時も、人生には意味がある

 

 原作ではないのですが、たぶんこちらのほうが読みやすいでしょう。

 ニーチェの名言が良いとこ取りされた「ニーチェの名言集」なんていう本とかありますけど、この本もたぶんその類かと思います。

 

 歴史というものは必ず、どこかに痕跡を残し、常に未来に付き纏います。過去がない現在などありませんから、今日に至るまでに過ぎた時間、その流れで起きた出来事というのは過去改変でも起こさない限り永遠に史実として残りますね。

 戦争も、テロも、人種差別も実際に起こっていることですし、今もなおそれは止むことのない歴史の流れの真っ只中にあります。

 未来はいつまで経っても読めませんけど、過去に起きたことならば、いくらでも知ることができるはずです。

 

 どんな極限の状態でも、人がひたすら「人」として生きようとする姿や、人が「人」としてはいられなくなるほど追い込まれていく姿は、今の時代、しかも、この日本で暮らしている私たちにとっては、共感できるようなものでも、同情できるようなものでもありません。

 私たちがするべきことは同情などではなく、単純に、この事実を知って受け止めるということだけです。




日本一わかりやすい保守の本 KAZUYA


 何事もとっかかりが重要です。きっかけさえあれば、人間はどんなことにでも興味をもてる生き物だと私は思うのです。

 かくいう私は、一年ほど前までは全くと言っていいほど、こちらの分野に疎い人間でした。政治、経済、歴史、国際問題…etc

 誰かのための、新しいきっかけになることを祈って。この本を推薦します。
 

 同じ道民としても応援しています!

 

 

 

 

終わりの感覚 ジュリアン・バーンズ

ジョーク・・・ユーモア・・・ウィット!ウィット!

センスのいい。とてもお洒落な一冊。

先月、誕生日に友人からプレゼントしてもらいました。本当にありがとう。

 

__記憶と時間をめぐる物語。

 今、思い出してみれば自分はどんな人生を送ってきたのだろうか。

どんな人間だったのだろうか。

私たちは自然と、これは本当に不思議なことなんですけど、過去を、思い出とか記憶とかいうやつを無意識に(もしくは意識的に)簡潔にしがちです。

どういうことかといいますと、細部までしっかりとそのまま。という風に記憶していられないんですね。この記憶力の無さに加えて、感情とか価値観というものがあらぬ尾ひれをつけまくって、オリジナルというものをいつの間にか消失させます。俗に言う”思い込み”ってやつ。これに対してとてもいい言葉があてられています。

「私たちは実に軽薄な思い込みによって生きている」

まさにそのとおりですね。脳男の書評書いたときにもこんな話した気がします。

 

もう一つ良かったのが若いと老いとの違いの話。

人というものは当たり前に歳をとる。つまり、時間を過ごして”記憶”を蓄える。

もちろん、現在も未来もあると信じているわけだから、これから先の人生をどう生きたいとか、こういうことが起こるだろうな、とかそういった予想、想像をするのも人生の醍醐味であるといえる。

色々な出会いが待ち受けているだろうし、楽しい出来事、嬉しい出来事が続いたり、逆をいえば、悲しいことや辛いこともたくさんあるかもしれない。別れも孤独も必ず経験するだろう。

これが「先を見る」ということ。誰にでもできること。私のような若者にもできる。小学生だって出来ると思う。

じゃあ、齢を重ねた人というのはさらに何ができるのか?

彼らはそう、「過去を振り返る」ことが出来る。

語弊がありそうなので言っときますけど、これはもう、ノスタルジー。郷愁です。

五十歳、六十歳なってやっと雰囲気が出てくるようなあれです。

長く生きてるから偉いとか、たくさん時間を過ごしたからすごいとか、そういうことを言いたいわけではなくて。

”記憶”という曖昧なものを、思い出しては忘れて、忘れては思い出してを繰り返して、…そして、気づけば”歴史”になっている。こういうのって本当に面白いですねぇ。

 

読み終わってちょっと思ったことでした。 

 

ドン・キホーテ セルバンテス

スペイン、ラ・マンチャ地方の田舎紳士アロンソ・キハーノ。

彼は騎士道小説の虜だった。我を忘れて、仕事すら忘れて、無我夢中でそれらを読み耽っていた。そのうち、読みたい物語を買うために、自分の所有していた広大な畑地まで売り払ってその種の本を買い漁るほどになる。終いには、寝る間も惜しんで読み続けているうちに、どこかで正気を失い、物語の中で出てくるような魔法、騎士道、決闘、騎士と王女との恋…などが現実のものなのだと思い込むまでにいたる。

自らをドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと名乗り、やせ細った貧相な馬にロシナンテというたいそうな名をつけ、同じ村にいた少し頭の弱い男サンチョを口説いて従者につかせ、「騎士道に誓ってこの世の不正を正す!」として正義の旅に出る。

 

狂気の沙汰とはこのことです。よく最後まで読んだなと、自分自身を褒めてあげたい。この主人公、五十歳ぐらいのおじさんなんですけど、痛々しすぎてみてられない。中二病だとしたらヤバイ方。てか狂人そのもの。

文学としては称賛に値するものなのかもしれませんけど、物語や人物を読む、みる、となると少し酷かもしれません。特に読み始めたあたりが辛かった。それでも半分過ぎると結構慣れてる自分に気づきます。

この作品が世に出てから、400年ほど経つようです。

それでもこうやって、様々な国の人に読まれているというのはすごいことですね。

所々の言い回しとか、表現力豊かな文章には目を見張るものがあります。

ただ再読する気は起きない。

ナ・バ・テア 森博嗣

僕は、空で生きているわけではない。

空の底に沈んでいる。

ここで生きているんだ。

 

スカイ・クロラの物語よりも少し昔。スカイ・クロラでもヒロインだった彼女”草薙水素”の過去を描く。

今作も依然として変わらない、森博嗣先生の名言流星群に立ち会えます。かっこよすぎて死ぬかと思った。

 

草薙水素は空に憧れていた。嫌らしさに溢れる地上が嫌いだった。なぜなら、地上は人間たちが作った人工物や、その廃棄物の掃き溜めとなっているからだ。

~空はまだ無傷に思える。何故かっていうと、人間が作ったものが空にはほとんど浮いていないからだ。

 

飛行機乗りたちが空で殺し合う。この広い空の中で、鳥のように死んでいったとしても、死んだ人間が行き着く先は決まっている。

~死んだ人間は、水に沈むか、土に埋もれるか、そのどちらか。空に浮いたままってことは、ない。天使じゃないんだから……。

 

草薙たちのような、キルドレのパイロット連中は、無宗教だったり神様を信じていなかったりする人間ばかりだ。祈れば救われるとか、命が助かるとか、そんな考えでは殺し合いの中で生きていけない。自分を生かすのも殺すのも、全ては自分の手が決めることだから。

~僕たちに神はない。僕たちが信じるのは、メカニックと、操縦桿を握る自分の腕だけだ。

 

草薙たちパイロットは皆、ほとんどがキルドレ※である。

※思春期以降歳をとらない、病気やウイルスにも強い。外傷でしかほとんど死ぬことのない、遺伝子操作によって生み出された人類のこと。それ故に、戦場で殺し合いをする兵隊に使われる人間のほとんどは、キルドレである。

同じキルドレである比嘉澤が、軍人としては珍しいキルドレではないパイロット”ティーチャ”のことを「普通の」人間と呼ぶことに対して、草薙は不快感を抱く。

~どうして、普通のものを決めるのだろう。普通を決めるから、普通じゃないものができてしまう。理不尽な話ではないか。何をもって普通なのか。意味はないのに。そういう確固とした理由もないところで境界を無理に作ろうとする姿勢が、普通という馬鹿なやつの正体だ。

 

スカイ・クロラもセンスしか感じなかった。続編も見事にクリーンヒットしました。むしろ今作のほうが洗練されている部分もたくさんありました。

最初、この主人公一体誰なん?とか思って読んでたら草薙水素かよってね。僕っこ好き歓喜。

そして笹倉はいつの時代もいいやつです。

 

ハル

さっき観てきました。本日全国ロードショー。

鮮度抜群すぎて残念ながらリンクがおかしいです。近々ちゃんと貼り直しますね。

いつもどおり一人で劇場に足を運んだわけですけど、女性率高すぎてすごかった。怖い。

~あらすじ~

飛行機事故で突如、最愛の人”ハル”を失った”くるみ”。

くるみは生きる希望も、気力も失い、感情が薄れてしまっていた。

彼女の笑顔を取り戻すために、人型ロボットであるキューイチは、彼女の恋人ハルにそっくりな”ロボハル”として生まれ変わり、くるみと暮らすことになる。

かつてのハルの記憶を持ち合わせていないロボハルは、戸惑いながらも純粋に彼女のことを思い、彼女の笑顔を少しでも取り戻すために奮闘する。

永遠に心を閉ざしたままのように思えたくるみだったが、ロボハルの一生懸命さや、一途な思いが伝わり、少しずつ時間をかけて心の錠が解かれていく。

 

女子ウケは良いでしょう。特に十代、二十代女性なら結構楽しめると思います。

終盤のどんでん返しもなかなか面白い。

ただ、何事も期待しすぎるのはいけませんからね。

言の葉の庭 新海誠

5月31日ロードショーということで、まぁその日に見に行っていたわけですけど。

本当に素晴らしい。男心も女心もくすぐる作品に違いない。

 

15歳の男子高校生と27歳の社会人女性の小さな恋を描いた物語。

~あらすじ~

__靴職人を目指す主人公タカオは、雨の日の午前中はいつも学校へは行かずに庭園へ通って靴のデザインを考えていた。ある雨の日。いつも通り庭園へ向かった彼は一人の女性に出逢う。どこか見覚えのある彼女、それからというもの雨の日にタカオが庭園に訪れると必ずその女性と遭遇するようになる。

何度も顔を合わせていくうちに、二人は自然と打ち解け、タカオはいつの間にかその女性に恋心を抱くようになっていた。そしていつからか、その人と会える唯一の口実である”雨”を願うようになっていた__

 

まずは劇場に足を運んでください。話はそれからです。

新海節恐るべし。