そんなに暇なら本でも読みませんか?

書評、感想、おすすめ。少々偏りがありますが、わりと何でも読みます。

ナ・バ・テア 森博嗣

僕は、空で生きているわけではない。

空の底に沈んでいる。

ここで生きているんだ。

 

スカイ・クロラの物語よりも少し昔。スカイ・クロラでもヒロインだった彼女”草薙水素”の過去を描く。

今作も依然として変わらない、森博嗣先生の名言流星群に立ち会えます。かっこよすぎて死ぬかと思った。

 

草薙水素は空に憧れていた。嫌らしさに溢れる地上が嫌いだった。なぜなら、地上は人間たちが作った人工物や、その廃棄物の掃き溜めとなっているからだ。

~空はまだ無傷に思える。何故かっていうと、人間が作ったものが空にはほとんど浮いていないからだ。

 

飛行機乗りたちが空で殺し合う。この広い空の中で、鳥のように死んでいったとしても、死んだ人間が行き着く先は決まっている。

~死んだ人間は、水に沈むか、土に埋もれるか、そのどちらか。空に浮いたままってことは、ない。天使じゃないんだから……。

 

草薙たちのような、キルドレのパイロット連中は、無宗教だったり神様を信じていなかったりする人間ばかりだ。祈れば救われるとか、命が助かるとか、そんな考えでは殺し合いの中で生きていけない。自分を生かすのも殺すのも、全ては自分の手が決めることだから。

~僕たちに神はない。僕たちが信じるのは、メカニックと、操縦桿を握る自分の腕だけだ。

 

草薙たちパイロットは皆、ほとんどがキルドレ※である。

※思春期以降歳をとらない、病気やウイルスにも強い。外傷でしかほとんど死ぬことのない、遺伝子操作によって生み出された人類のこと。それ故に、戦場で殺し合いをする兵隊に使われる人間のほとんどは、キルドレである。

同じキルドレである比嘉澤が、軍人としては珍しいキルドレではないパイロット”ティーチャ”のことを「普通の」人間と呼ぶことに対して、草薙は不快感を抱く。

~どうして、普通のものを決めるのだろう。普通を決めるから、普通じゃないものができてしまう。理不尽な話ではないか。何をもって普通なのか。意味はないのに。そういう確固とした理由もないところで境界を無理に作ろうとする姿勢が、普通という馬鹿なやつの正体だ。

 

スカイ・クロラもセンスしか感じなかった。続編も見事にクリーンヒットしました。むしろ今作のほうが洗練されている部分もたくさんありました。

最初、この主人公一体誰なん?とか思って読んでたら草薙水素かよってね。僕っこ好き歓喜。

そして笹倉はいつの時代もいいやつです。