そんなに暇なら本でも読みませんか?

書評、感想、おすすめ。少々偏りがありますが、わりと何でも読みます。

月と蟹 道尾秀介

 

 生臭い小説。

 良い意味で。

 

~あらすじ~

 物語の主人公”慎一”は、父”政直”の会社が倒産したことを機に、家族とともに東京にあった社宅を出され、政直の父である祖父”昭三”が住む父方の実家。鎌倉市にほど近い海辺の町で暮らすことになった。

 しかし、それから一年ほど経った頃、政直は病に倒れ、他界してしまう。

 残された慎一とその母”純江”は、そのまま昭三の家で暮らすことになる。

 片足を海難事故で失い、年金暮らしである昭三と、パートで家計を支える純江。切り詰めたような生活を送る家庭の中で、慎一は子供ながらに、自分の誕生日のプレゼントをねだることすら遠慮するほどになる。さらに、立て続けに起きた環境の変化や、精神的な不安定さも重なって、いまどきの同級生たちの遊びからも遠ざかっていく。

 慎一自身が転校生だということもあり、クラスで孤立感を増す一方、唯一の転校生仲間である”春也”とは、お互いの同属意識からか、次第に打ち解ける仲になる。

 二人の間では、ヤドカリを神様に見立てて焼き殺し、願い事を叶えるという。

 儀式めいた遊びが流行っていた。

 

 子供は無邪気です。ただ、それだけに可能性に満ち溢れすぎて恐ろしい存在でもあります。

 アナキンがダークサイドに堕ちてしまったように、透明や白に近い存在であるということは、一種のリスクを背負っているわけです。

 家庭環境については、家庭を持ったこともない私がとやかく言う筋合いはありませんけど、どういう理由であれ、経緯があれ、子供に最も強い影響力を与えるのは「親」です。「大人」です。これは間違いありません。

 子供同士の詮無いやり取りなど些細なものです。しかし、例えばそこに何か問題が生じたとして、それをどのように解決するのか。何も知らなければ、何も教わっていなければ、子供にはどうすることもできません。

 だから、親をはじめとする大人から予め教わっておくのです。そして、その教え方や受け取り方にそれぞれの個性が反映されていき、物心ついたようなときには自我が芽生えているというわけです。

 

 いやぁ、本当に生臭い。ヤドカリ臭がぷんぷんします。それだけじゃない、作者はこういう少年少女たちを描くのが恐ろしく巧いです。子供たちの一つ一つの些細な動作がリアリティありすぎです。

 性とかがまだ完全に芽生えていない頃の子供って、大多数が圧倒的にそういうものに対して嫌悪感を示しますよね。よくわからないけど「気持ち悪い」的な。

 小学生たちが河原のエロ本とかをわざわざ突っつきにいったりするあれもです。興味があるけど、理解できない。マジマジとみられないけど、少しは見たい。私も子供のころはありましたから、なんとなくこの気持ちはわかります。

 自分の母親と同級生の父親が如何わしいことをしている場面に出くわした時の慎一の心境とか、胃にくる。