プールの底に眠る 白河三兎
夏の終わり、僕は裏山で「セミ」に出逢う。
それは僕の目の前で首吊り自殺を図ろうとしている少女だった。
生きているけど、死のうとしている。その少女はとても美しかった。
「イルカ」の僕は彼女に恋をする。
__それから十三年の月日が経った。僕は彼女との思い出を辿っていた。
殺人の罪を背負った留置場の中で。 儚くも美しい、切なくて愛おしい、
あの夏の一週間の記憶を鮮明に蘇らせる。
面白いです。最初は何の気なしに読み進めていたはずだったのに、途中から文章を追うスピードが加速します。中盤から後半にかけてが特に面白い。
思わせぶりなバッドエンド展開とは裏腹に最後はハッピーエンドで終わるわけですけど、これは叙述トリックというよりかは、ミスリードですね。燻製ニシンの虚偽ってやつです。主人公がマイナス思考すぎて生み出した妄想にとことん付き合わされたという感じ。唯一突っ込みたいのはそこだけ。
個人的にはエピローグなしに、ある段階で区切りをつけて物語を終わらせてしまっても良かったんじゃないかと思えます。それじゃまるで、話の成り立ちから否定するようですけど、何も解決しないまま終結させたとしてもこの物語なら問題なさそうですし。結末は読者の解釈に任せるというかたちで。
人間は残酷で美しい。
美しいけど、同じくらい醜い。
強くて弱い、弱くても優しい。
優しいということは強さだ。
辻村深月が絶賛しているようですが、確かにわかります。私も絶賛します。