そんなに暇なら本でも読みませんか?

書評、感想、おすすめ。少々偏りがありますが、わりと何でも読みます。

脳男 首藤瓜於

これは上等なエンタメである。そして同時に、脳医学の本でもある。

特に良かったのが、登場人物のキャサリン・ブライマーの言葉

「わたしという自我をひとつにまとめている力が感情だといえる」

「思想も信念もただの言葉。言葉というのは他人のもので、わたしたちはそれを勝手気儘に剽窃してきてそれを組み立てたり壊したりしているにすぎない。いくらでも更新できるし、消去することもできる」

「その証拠に、思想や信念は変更しても自己はもとの自己でありつづける。それに反して感情は、気分や気持ちといったものだけど、途切れることがない」

 

自我とは何なのか。たくさんの人間がいて、自分もその人間達の中の一人であることに変わりはない。しかし「自分」という人間を認識する際に、私たちは一体何を基準として自分が自分であるという確信に到るのか、ということだ。自己を確立させる、自己固有の価値観を獲得する。こういうのをアイデンティティーと云うけど。

それは例えば「記憶」が。自分の過去を思い出すことで、自分がどういう人間だったか、自分はどういう境遇にあったのか確認することができる。現在の自分に繋がる。

そして「感情」が。誰かや何かに対する想い、自分の胸の内に秘めている思いを自らの心で感じることによって、自分が自分足らしめる理由の一つとする。

あれが好きだとか嫌いだとか、それは良い行いで、これは悪い行いで・・・そういう価値観や趣向って刻一刻と、色を変えて形を変えていくものだけど、それでもいつまでも途切れる事なく、一生ついてまわるものなんだ。そういう思い、つまり「感情」が湧いてくるということ。それを感じ取る事で皆、私は「私」なんだなと確信する。

こういう解釈でいいんだろうか。