そんなに暇なら本でも読みませんか?

書評、感想、おすすめ。少々偏りがありますが、わりと何でも読みます。

あなたの魂に安らぎあれ 神林長平

放射能による大気汚染は人間を太陽の下から追いやった。舞台は核戦争後の火星。もちろんifのお話。地表は人間の生活できるような環境下ではなくなり、人々は地中深くに空洞都市をつくり、まるで日の光から逃れるもぐらのような生活をおくっていた。代わりに地上を任されたのは人間に造られたアンドロイド。造った側の人間と造られた側のアンドロイド。両者は完全な主従関係にあったはずだが、いつしかそれは逆転していた。

猿はいくら賢くても猿並みの知能しか持たない。彼らが人間に勝てないのは圧倒的な知力の差だろう。例えば「火」を扱えることや「銃」を扱えることは人類の専売特許だ。これらがなければ丸腰の人間がゴリラやオランウータンなどの霊長類と争ったところで結果は目に見えている。

作中で登場する有機アンドロイド達は人間となんら遜色ない知能を持っている。見た目も人間過ぎるほど人間だし、更には一体一体が異なる思想や価値観を持ち合わせているのだ。そんな彼らに「武器」なんか持たれて、反乱なんて起こされた暁には人間は滅ぶでしょうね。しかし人間もただ黙っているわけはありません。戦争が起きます。

見た目は何も変わらないのに「人間」は「人間」であるとか、「アンドロイド」は「アンドロイド」であるとか、この両者の違いはどこにあるのか?

それを、人々は「魂」の有無によるものだという。「魂」がないから殺していい「壊していい」のだという。じゃあその「魂」とはどこにあるどういう存在なのか。未だ誰も見たことがない、誰もその存在を確認したわけではない、そんな曖昧なもののために人間は争うのか。

宗教戦争とか、思想の違いから起こる戦争とかって人間の歴史を遡れば、数え切れないほど起こっている。もういっそ、みんな猿にでも生まれ変わった方が平和に暮らせるんじゃないですかね。