サラの柔らかな香車 橋本長道
いつだったろう、この本を手にしたのは。
何気なく、いや本当に何の気もなしに購入していたのだけれど。
なかなかにして新鮮で、軽やかに描かれていく物語に、気づけば引き込まれるようにして読み耽っていた。確か、夏だった。扇風機の前に張り付きながら読んだ一作。
プロ棋士を目指して、挫折した26歳の瀬尾が、スロットやらパチンコやらに明け暮れる日々の中である日、美しい少女に出会う。ブラジル生まれの美少女、サラ。
物語は、瀬尾が彼女に将棋を教えていくことから始まる。
どこの誰でも、どんな人でも、言ってしまえば世界中の誰だって。たぶん、本人が気づいていないだけで、何かしらの才能が内に秘められていると思う。
でもそれはもしかしたら、その人が生涯を通しても一切関わることのない分野かもしれない。または、自らの先入観から、取り組もうとすら思わない分野かもしれない。
大半の人々はきっと、自分がそれなりにこなせる分野だとか、ある程度は我慢してもやっていけるようなことを生業として生きていく。
そんな中でも稀に、自分のポテンシャルをフルに発揮できることに出会う人がいる。
例えば画家、作家、歌手…それこそ棋士だとか。竜王なんて特に。
そんな存在を人々は「天才」と呼んだりするわけだけど…天才とは一体、何を定義としてそう呼ぶのだろう。