死ねばいいのに 京極夏彦
京極先生こんにちは。
京極夏彦といえば、姑獲鳥の夏だとか魍魎の匣だとかっていう、時代小説ものとかミステリ作品を連想する人が多いと思うけれど、この作品もなかなかいいです。いや、もちろん京極堂シリーズは傑作なのだけど。
暗黙の了解だったり、看過されているような現代社会の闇の部分を、どことなく風刺しているような、そんなシニカルな作品。
排他的な思考に傾きやすい今の現代人にとって、他人の意を汲むとか、他人を慮ることって、すぐに実行できるようなことではないし、仮令それが元々備わっている人であっても、限度ってものがある。
結局のところ、みんな、可愛いのは自分自身で、どれだけその輪を広げてみても、それはきっと、家族とか親戚、友人とか恋人、その程度でおさまってしまう。それどころか、自らの危険を及ぼしてまで、誰かの為に自分を犠牲にすることが出来る人間がこの現実世界に、現代にどれだけ存在していることだろう。
物語の中心となる青年のステータスはかなり致命的である。
職業無職、身分証明書一切なし、やりたいこと、夢、なし。
一般的な社会人や、大人からみれば、かなりどうしようもないこの青年が、亡くなった一人の少女の生きていた頃の在り方や、何を思って死んでいったのかを知るべく、彼女の交流関係を辿って様々な大人達と出会っていく。
罪悪感のない悪ほど恐ろしいものはないけれど、ここに出てくる大人達はみんな一般的(?)な程度の道徳や倫理が備わっているらしく、誰もが後ろめたさを胸に秘めている。そんな大人達に対して青年が、悪気もなく、計画もなく、ただただ素直に、率直に意見を述べていくさまはなかなか清々しい。
ただ、内容が内容なだけに、気持ちは少し重くなる。
それでもたくさんの人に読んで欲しいと思える一冊。